灯台

島国である日本にはたくさんの灯台があります。灯台の多くは、陸地が海に落ち込む断崖のようなところに凛として立っています。風雪に耐え、夏の炎暑に耐えながら長い年月、海を照らし続けてきました。私はその強さや寂しさを思うとなぜか人の生き方に重ねてしまうことがあるのです。
私は信州の御牧ケ原にある小屋のようなアトリエでほとんどの作品を制作しています。この一帯は「日本で一番海に遠い町」といわれており、灯台に会いに行くためには何百キロもの旅が必要になります。私は2020年から4年間、延べおよそ9000㎞にわたり北海道と東北地方の海岸線をめぐり取材をし、灯台をテーマとした作品を制作していました。
特に北海道の灯台が好きで、中でも能取岬灯台には何度も出かけ一番多く作品にしました。能取岬灯台は網走の北東にあり、広大な緑の原野に立っていますが、直下のオホーツク海は冬には流氷に閉ざされる厳しい自然の中で堂々とした姿で立っています。
メリーゴーランド

清里の森の中でメリーゴーランドを見つけました。森の中に忽然と現れたようなそのメリーゴーランドは、どこか古めかしくむかしむかしに出会ったことがあるような懐かしさを感じるメリーゴーランドでした。
ゆっくりとした音楽とともに回り始めたメリーゴーランドの音を聞きながら呆然と眺めていると、誰も乗っていないメリーゴーランドには、ウマだけではなく、シカやクマ、ブタ、ウサギと思いがけない動物たちが回っていて、どこか謎めいた不思議な感じがしました。
そのファンタジックでレトロな雰囲気を出すために、色の組み合わせを工夫しながらスクリーン版画を制作しました。
森林鉄道

木曽の森の中に小さな鉄道が残っています。かつては木曽のヒノキなど木材運搬で活躍していた「赤沢森林鉄道」です。今では観光用の鉄道として一駅間だけの短いコースを走っています。
屋根だけついた展望車のような客席に座り、ゆっくりと動き出した列車から外を眺めると木々の緑が美しく、心地よい風が森の臭いを運んできます。客車はディーゼル機関種に引かれ森の中を走り、その音や振動にはのんびりとした趣があります。かつての蒸気機関車も展示されており、山の鉄道らしい無骨な姿に感動を覚えました。
森林鉄道独特の森の臭いと機械油のにおいを感じられるような作品を目指して少し暗めの色調でスクリーン版画を制作しました。
雪の里

雪が見たくて1月に奥日光を訪ねました。鬼怒川温泉駅から会津方面に向かう東部鬼怒川線に乗り換え、いくつものトンネルを抜けて湯西川温泉駅で下車しました。トンネルを一つ抜けるごとに雪が深くなり、駅前は固まった雪の道で宿からの迎えの車まで歩くのに苦労しました。
夕暮れ近くに訪れた「平家の里」は小雪のちらつく中で眠っているように静かでした。人影も少なく次第に暮れていくコバルト色の世界に感動しシャッターを切りました。
城

日本にはかつて4~5万の城があったようですが現在見ることができる城はおよそ200か所だそうです
私は近年、毎年初夏のころに車で灯台巡りをしています。北海道から東北、北陸、近畿、中国、そして昨年は九州の北西部を巡りました。そんな旅の途中で城に出会うことがよくあります。城は戦いを目的として建てられたため、どっしりと強固につくられているせいかどの城も近づくと圧倒されるような迫力があります。
姫路城のように壮大で華麗な城もありますが、いまにもぐずれそうで寂しく見える城もあります。しかし、どんな城でも石垣や堀、塀、櫓(やぐら)などには長い歳月、風雪に耐えた力強さと風情があり心を打ちます。
江ノ電

幼いころから江の島や鎌原に行ったとき乗った小さな電車。家と家のすき間を縫うように走ったり、人や自転車などと同じ路面を走ったりして大人にも子どもにも人気のあった「江ノ電」をテーマに鎌倉周辺の空気を表現してみたいと思い、冬の暖かい日に出かけました。
何度でも乗り降りできる一日券を買ってのんびりと江ノ電を楽しもうと思っていましたが観光客の多さに驚きました。そのほとんどが中国からの観光客で春節休みを使っての旅行なのでしょうかたいへんな数でした。しかし、版画にしてみるとそこには懐かしい子どもの頃に戻ったような鎌倉の風景がありました。